なぜ全文掲載すると、本の売上が伸びるのか?
本当にいい本は手元に置きたくなる『拝啓、本が売れません』特別編②
■「試し読み」に未来はあるか?
加藤さんが編集を担当した平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』(毎日新聞出版)。2015年3月から2016年1月まで毎日新聞朝刊とnoteで連載されたのち、単行本として発売された。
加藤さんは、連載当時をこう振り返る。
「新聞での連載とnoteでの連載は、まず読んでいる層が全然違います。そもそも新聞と違って、毎朝配達されて、必ず読者の目に入るようなものではありません。なので、ネットで連載するにあたって、まず読者に読むことを習慣づけてもらう必要がありました。特定の曜日や時間帯に、『あ、そろそろ更新されてるから読まなきゃ』って読者にアクションを起こさせる必要があったんです」
「月曜日だからジャンプ買いに行こう的なやつですね」
「そんな感じです。『マチネの終わりに』のときは、新聞小説ということもあって、短い文章を毎日、noteで連載していきました。すると、読んだ読者が『ここの台詞が好き』とか『今日の更新分面白かった』『早く続きが読みたい!』って反応をしてくれたんです。そういった感想をSNSに画像とURL付きで投稿してくれたら、それがまた宣伝になって人がやってくる。口コミで読者が増えていく様子は凄くライブ感があって、それが本の売り上げにも繋がっていきました」
「最近は発売前にネットに全文掲載、なんてことも増えてきてますからね。試し読みなんて当たり前のようにネットに掲載されますし」
私の言葉に、加藤さんは「うーん、そうですねえ……」と何故かしかめっ面で首を傾げた。
「僕は、試し読みは、あまり意味がないと思っているんです」
「……なにゆえですか」
自分の公式サイトで『拝啓~』の試し読みを掲載していただけに、私は身を乗り出して加藤さんに聞いた。
「試し読みっていうのは、一部分を限定的に、しかも時期を区切って掲載しますよね。これって、あくまでも出版社側の都合で、読者目線ではないですよね。読者からしてみれば全文を読みたいと思うのが当然です。出版社が一部分だけを掲載するのは、全て載せたら本が売れなくなると考えてるからなのですが、『本当にいい本』であれば、全文掲載するとむしろ売り上げは上がります。cakesやnoteでそういう実績はたくさんあります」